マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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『韓国語発音ガイド ―理論と実践―』
韓国語発音ガイド―理論と実践韓国語発音ガイド―理論と実践
(2008/09)
秋 美鎬山下 佳江

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Choo & O'Grady (2003) The Sounds of Korean: A Pronunciation Guideの日本語版です。単純な翻訳ではなく,日本の学習者向けにかなりの修正と加筆がほどこされています。とくに注目すべきは,「第5章 リズムとイントネーション」という章が新たに加えられたこと。Jun Sun-Ah氏の韓国語イントネーション研究が紹介されています。

Jun Sun-Ah氏の研究に関しては,これまでにも私が書いたものとか,閔光準さんの「韓国語のイントネーション」(『音声研究』11巻2号,2007年)の中でも取り上げられていましたが,これらは主に専門家を対象として書かれたもので,学習者向けの教材の中で本格的に取り上げられたのは,日本では私が知る限りはじめてだと思います。さらに,私や閔光準さんが取り上げていなかったPark Mee-Jeong氏の境界音調(句末,文末イントネーション)の研究も取り上げられていて,かなり本格的なイントネーションの解説になっています。

学習者向けとしては理論色が強すぎるのではないかとも思えるのですが,そのへんは学習者の方々の感想を聞いてみたいところです。

残念だったのは,付属の音声DVDに入っている発音において,イントネーションが本文の説明と合っていない部分がかなりある点。たとえば,우리 작은 동생은が本文(p.116)ではアクセント句(本書の用語ではピッチ・フレーズ)一つとなっているのに対し,音声DVDの発音では二つになっていたり。どっちもありえる発音だと思いますが,本文と音声が食い違っていては,読者を混乱させてしまうのではないかと・・・。

まあ,こういったことは細かいことで,このような本が出たことは,歓迎すべきだと思います。



ところで,ほかにも最近韓国語の発音に関する本が出ています。以下の長渡さんの本。

韓国語の発音と抑揚トレーニング―今すぐ実行できるウラ技を大公開!韓国語の発音と抑揚トレーニング―今すぐ実行できるウラ技を大公開!
(2009/03)
長渡 陽一

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ここでもイントネーションにかなりページが割かれています。

あと,発音がメインの教材ではありませんが,今年出た前田さんの本でも,イントネーションのことが取り上げられていました。

韓国語上級への道―トレーニングノート韓国語上級への道―トレーニングノート
(2009/03)
前田 真彦

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新たな潮流なのでしょうか・・・。
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テーマ:韓国語 - ジャンル:学問・文化・芸術

BeckmanによるGussenhoven(2004)の書評
BeckmanによるGussenhoven(2004)の書評が,Languageの最新号(Vol. 84, No. 3, pp. 641-643, 2008)に出ていました。書評の対象となっている本は以下のもの。

The Phonology of Tone and Intonation (Research Surveys in Linguistics)The Phonology of Tone and Intonation (Research Surveys in Linguistics)
(2004/09/30)
Carlos Gussenhoven

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内容の大まかな紹介と,細かい問題点の指摘などがなされています。Ladd (1996) との比較もなされています。

いちばん示唆に富むと思えたのは,最後の段落。音韻論と音声学との区別,およびそこにおける離散性と連続性の問題がふれられています。Gussenhovenは音韻論―離散的,音声学―連続的だと考えているようだけれど,そんなに単純ではないという話。

正直いって,私にはGussenhovenの立場は理解できるけれど,Beckmanの立場はよくわかりません。まあ,関連する文献を読みながら,じっくり考えてみる必要がありそうです。(なお,この問題,そろそろ出るはずの私の論文とも関係があります。)

書評にも書いてありますが,Gussenhovenの本と引き合いに出されるLaddの本は,もうすぐ改訂版が出ます。今回のBeckmanの書評,Gussenhovenの本の紹介であると同時に,Laddの新しい本の宣伝になっているような気がしてなりません。(ちなみに,Laddの新しい本は,Amazonで注文が出来るようになっていました。)

Intonational Phonology (Cambridge Studies in Linguistics)Intonational Phonology (Cambridge Studies in Linguistics)
(2008/10/31)
D. Robert Ladd

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疑問詞スコープなどにおける高平のピッチ(金次均 2002より)
慶尚道のいろいろな方言において,疑問詞のスコープが高く平らなピッチを示すことが知られています。久保智之先生がいろいろ発表されていて,以前にそれについての記事を書きました。例えば,

(1) 김치 물래? (HLHL) (キムチ食べる?)
(2) 무슨 김치 물래? (LHHHHL) (何のキムチ食べる?)

という具合です。本来のアクセント・トーンが失われてしまうのが特徴です。

似たような現象は福岡方言にもあることが知られていて,これもやはり久保先生が論文を書いています。福岡方言についてはさらに,Jennifer Smith氏が論じたり,五十嵐さんがフォーカスと絡めて分析したりしています。そんなわけで,けっこう話題の現象なわけです。

さて,この現象,今読んでいる金次均(2002)でも取り上げられていました(記事12)。慶尚道の昌原方言に関してです。データがいろいろ出ていました。

私が興味を持ったのは,この方言では似たような現象が疑問詞のスコープ以外にも観察されることです。取り上げられていたのは以下の副詞。(丸括弧内は標準語形)

안 [p.294ff.]
잘 [p.300f.]
잘몬 (잘못) [p.300f.]
더 [p.300f.]
고마/고만 (그만) [p.300f.]

いずれの場合も,後続の語(ときとして2語以上)までが1つの単位にまとまり,LH...HL(金次均氏にしたがえばMH...HM)というピッチをとります。後続語の本来のアクセント・トーンが失われること,次末音節から最終音節にかけて下降が現れることが特徴です。

昌原方言の韻律句形成(金次均 2002より)
前回の記事に引き続き,金次均氏の本に関する話です。

김차균 (2002) 영호남 방언 운율 비교. 역락.

第9章に興味深い話がありました。

この方言のピッチを文レベルでみたときに,本来の(単語単独の場合の)ピッチと比べてどのような変化があるか。著者は2通りの変化があると述べています。
A.. 声調形の結合
B. 音調形の弱化

# この著者が「声調」と「音調」をどういうふうに使い分けているのか,私にはいまいちよくわかりません。それはともかく,この2つの変化が意味するところはだいたいわかりました。以下は私の言葉で説明します。

Aは複合語トーン規則と同じ規則に従って変化するというもの。例えば,(1)が本来のトーンで,これが(2)になるというもの。

(1) ppee # mukcci # malko
  MM   HM    LM
(2) ppee mukcci malko
  HH   MM  MM

# 例はp.262 (74)より。
# 私はH(高音調)とL(低音調)の2つで表記してきたのですが,ここはとりあえず著者の表記に従って,H,M,Lの3段階の表記に。

Bは本来のトーンをとどめつつ,ピッチレンジが狭まるというもの。著者はこの場合をh, m, lというように小文字で表記しています。この場合,(1)は(3)のように発音されるとのこと。

(3) ppee mukci malko
  HH   hm  lm

著者はこの現象について,以下のように整理しています。

(4) (= p. 264 (78),拙訳)
a. 1つの語節は伝達のフォーカスになったり強調または対照されるとき強勢を受ける。
b. 1つの文の中で,声調形(/音調形)の結合の領域は,強勢を受ける語節から次の強勢を受ける語節の直前の語節までである。
c. 1つの文の中で,声調形(/音調形)弱化の領域は強勢を受ける語節の直後の語節から次の強勢を受ける語節の直前の語節までである。
d. ただし領域内で声調形の結合が生じるか音調形の弱化が生じるかは任意的である。

# (4a)でなぜ「1つの」という修飾語がつくのかよくわからないです。私の訳し方が悪いのか・・・?
# なお,「語節」というのは韓国の国語学の用語で,日本の「文節」に似た概念です。
# 「強勢」と書かれているのは,別の言い方をしたほうがいいでしょう。「プロミネンス」かな・・・。

要するに,(4b)がAに,(4c)がBに対応しているわけです。

なお,(4d)に関しては次のようにも述べています。以下は私の言葉におきかえてまとめたものです。

(5)
a. 語節内の形態素間では弱化(B)よりも結合(A)をすることが多い。
b. 語節間では結合(A)よりも弱化(B)をすることが多い。

(6)
a. 疑問詞や否定の안などが先行する場合は長く結合することがある。
b. aのケースを除けば,2~3の語節を超えて結合することはない。
c. bのケースにおいても,音節数が少ないほど結合しやすく,多いほど結合しにくい。

(6a)の疑問詞や否定の안に関しては,別のところで詳しく書かれていました。これについては後日あらためてまとめてみます。

次のようなことも書かれていました。


特別な場合を除けば,声調形の結合は2つの成分が修飾・被修飾の関係にあったり,目的語と他動詞の間の場合が多く,主語と自動詞の結合もときどき現れる。{-・아/・어}語尾を持つ本動詞と助動詞,合成動詞などの場合はさほど結合する方ではない。(p.265f. 拙訳)


こういう話,おもしろいと思いませんか?(誰に向かって話しかけているんでしょう?(笑))




なお,ちょっと似たような話,私も論文の中で書きました。昨年夏にポスター発表した馬山・昌原方言の韻律に関する論文。そこでは,フォーカスをおいた場合に,フォーカスのある語から後続の語にかけて1つの韻律句にまとまる場合と,2つに分かれて後ろのピッチレンジの上限が抑えられる場合があると書きました。上のAとBにほぼ対応します。全く同じではありませんが。

上の(2)と(3)の例では,実は両者は弱化の程度の違いだという解釈も成り立ちます(つまり,(2)は極端な弱化のケースだと)。私が調べた中では,AとBがはっきり違った現れ方をするケースがいろいろ観察されました。

私の論文と金次均氏の本では,同じ方言を扱っています。(というか,金次均氏はこの方言のネイティブ。)ただし,世代がかなり違います。私が若い世代に関して観察したことが,もっと上の世代でも同じように起きているというのが,私にとって非常に興味深かった点です。ただ,私の論文の中では,トーンのレキシカルな型(いわゆる「アクセント型」)とA/Bの現れ方の関係をいろいろ見たのですが,この本ではそのへんがわからないのが残念な点。本に収められている資料を自分で見ていけば,わかるのかもしれませんが。

あと,音節数に関する話は,私の論文と一致する点です。これに関しては,別の方言にも観察されました。今年の夏に大邱方言に関して発表します。

まあ,本来だったら,自分の論文を発表する前にこの本に目を通していて,論文中で言及をすべきだったのですが。改訂の際にはもちろん言及します。




なお,金次均氏の本の中では,弱化した場合の具体的なピッチの現れ方についても述べられています。それによれば, h (Hの弱化したもの)は H より低めに現れるが l (Lの弱化したもの)は L より高めに現れると述べています(p.265ff.)。これがもし本当だとしたら,一般的な韻律理論の観点からしても重要な意味を持つことだと思います。でも,本当なのか・・・私はちょっと懐疑的ですが。

Donohue (1997)
Mark Donohue (1997) Tone systems in New Guinea. Linguistic Typology 1. 347-386.

ニューギニアの諸言語のトーンについて紹介しつつトーンの類型論を論じています。以下は私なりにまとめた要旨。



トーンは類型論的に三つにわけることができる。

1. Syllable-tone: 音節をドメインとしてトーンが指定される。したがって,音節数が増えるほど可能なパタンが増す。ニューギニアの言語では,Telefol語など。他の例としては,北京語。

2. Word-tone: 語をドメインとしてトーンが指定される。したがって,音節数が増えても可能なパタンは基本的に変わらない。ニューギニアの言語では,Kairi語など。他の例としては,Mende語,上海語。

3. Pitch-accent: 語のどれかの音節にアクセントが指定される。それによって他の音節のトーンも自動的に決まる。ニューギニアの言語では,Una語など。他の例としては,日本語(東京方言)。

これらは連続的であり,中間的な言語もある。
例えば,Fasu語は,ストレス音節がHになる型とLになる型とがある。Pitch-accentとword-toneの中間のようである。

また,(ニューギニアの言語ではないけれど)Fuzhou語(福州語?)は,syllable-toneとword-toneの中間である。(複合語の現れ方において,上海語のように単純にいかない。)



・・・こんな感じの内容でした。おもしろい論文でしたが,以下ちょっと気になった点を。

この論文,もとはといえば,斎藤(2001)の中で「早田輝洋と同様の結論に到達している」と書いてあったので,気になっていたものです。(ちなみに早田輝洋の結論というのは,早田(1999)をはじめとする早田先生の一連の著作の中で展開されているもの。)

確かに,Donohueのword-toneと早田先生の「語声調」,よく似てます。というかこれは,例えばKenstowicz(1993)とかGussenhoven(2004)に出てくるようなword melodyとはどう違うのでしょう?

それと,中間的なケースとして出てくるFasu語ですが,スウェーデン語と似ていると思います。実際本文中で,同じタイプとしてスウェーデン語が挙げられています(p.379)。最近はやりの言い方で言えばおそらく,「Fasu語にはH*とL*という2種類のlexical pitch accentがある」ということになるのでしょう。こういう見方をした場合,中間的でもなんでもなく,pitch-accentの一種になるのかと思います。

別の意味で中間的と言えるのは,大阪方言のように,(日本の伝統的な言い方をすれば)式とアクセント核の両方があるタイプの方言でしょう。早田先生はたしか,語声調とアクセントの両方があると見ていたはず。

で,最近しったのですが,原口先生なんかは,大阪方言は基本音調メロディーが2つあると考えるようです(原口 1995)。このアプローチでいくと,スウェーデン語も大阪方言と同じように基本音調メロディーが2つあることになるんじゃないかと。

スウェーデン語と大阪方言,見方によっては全然ちがうタイプですが,別の見方をすると似たような言語と言えるのかも。(別に原口先生の味方をしているわけではなくて,ただ,理論的な分析の仕方次第で類型論的分類っていろいろ変わるものだなあと。)



参照文献(上の文に出てきた順です)
# 概説書ばかりですね・・・。文献をさかのぼっていけば,もっと専門的な論文にいきつくはずです。

斎藤純男(2001)「音調の分析」 城生佰太郎(編)『日本語教育学シリーズ<第3巻> コンピュータ音声学』 おうふう.

コンピュータ音声学 (日本語教育学シリーズ)コンピュータ音声学 (日本語教育学シリーズ)
(2001/01)
城生 佰太郎

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音調のタイポロジー音調のタイポロジー
(1999/01)
早田 輝洋

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Phonology in Generative Grammar (Blackwell Textbooks in Linguistics)Phonology in Generative Grammar (Blackwell Textbooks in Linguistics)
(1993/09)
Michael Kenstowicz

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Carlos Gussenhoven

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音韻論 (現代の英語学シリーズ)音韻論 (現代の英語学シリーズ)
(1995/01)
原口 庄輔

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