マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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Ladd and Morton (1997)
D. Robert Ladd and Rachel Morton (1997) The perception of intonational emphasis: continuous or categorical? Journal of Phonetics 25, 313-342.

今やっている研究ととても関わりがあるもので、前々から読もうと思っていたのですが、今になってようやく読み終えました。内容もそうなのですが、方法論に関してもとても参考になる論文です。

この論文で扱っているのは、英語における強調のイントネーションに関して。普通のHアクセントと強調されてピッチレンジが増した場合との間に範疇性が認められるかを、知覚実験により検討しています。


1. Introduction
理論的な背景。特におもしろいのは、Gussenhoven and Rietveld (1988)が発見した現象(著者はこれをGussenhoven-Rietveld effectと呼んでいる)。これは、ピッチのピークを二つ持つ発話において、最初のピークを低くしてみると、2番目のピークの知覚上のプロミネンスも弱まるというもの。この現象は、後半の議論の中でも言及される。

2. General Method
方法論に関して。刺激音のもととなる発話を得るための録音の方法、ピッチレンジの操作(Total Rescaling法かStraight Line法か)など。Appendixにはピッチレンジを操作するための数式(Giessen model)も出ている。

3. Experiment 1
10ポイントのスケールで強調の度合いを判定させるという実験。文、被験者への指示の方法、刺激音の作り方、話者など、様々に変えてみている。ここで最もS型に近い結果をとったものが、実験2以降で採用されることになる。

4. Experiment 2: categorical perception
ここで行っているのは、典型的なカテゴリー知覚の実験。つまり、identification taskとdiscrimination task。(なお、discrimination taskにはいろいろなやり方がある。以前の記事ではABX法と4IBX法を挙げたが、ここで採用しているのはそのどちらでもなく、2IBX法。)

4.1. Experiment 2a
identification taskの結果: S型が現れた。
discrimination taskの結果: ピークが現れた。しかし、ピークの部分でも正答率は5割に満たず、さらにfalse alarmにおいて周波数が上がるほどdifferentと答える率が上がるという、不思議な現象が見られる。

※なお、ここのところではS型カーブからカテゴリーの境界を求めるために、Probit analysisというものを用いている。自分も、今後の実験のために、使えるようになっておく必要がありそう、、、

4.2. Experiment 2b
実験2aでは、discrimination taskにおいてABという組み合わせしか行っていなかった。実験2bでは、BAも加えて実験を行っている。その結果、BA hitがfalse alarmとほとんど変わらないという不思議な結果を得ている。(これについて著者は、declinationと関係があるのではないかと述べている。)

5. Experiment 3
ここでは、ピークのアラインメントを操作し、Early peakとlate peakの両方についてカテゴリー知覚の実験を行っている。その結果、identification taskとdiscrimination taskのいずれにおいても、アラインメントによってカテゴリー境界の位置が異なるかのような結果を得ている。このことは、ここで扱っているものが、子音の場合のような典型的なカテゴリー知覚と異なることを示唆している。

6. Experiment 4
ここでは、discrimination taskに関し、典型的な方法とは異なるやり方をとっている。すなわち、
・二つの刺激音の異なり具合を10段階で評価させる。
・1段階離れた組み合わせだけでなく、2段階、3段階離れた組み合わせも用いる。
その結果、
・明確なピークが認められない。
・呈示順の効果が認められる(ABとBAで傾向が違う)。
という結果を得ている。

7. Summary and conclusion
著者がまず述べているのは、ここまでの一連の実験の結果が、典型的なカテゴリー知覚と異なるということ。これについてさらに、ピッチレンジの差異は範疇的に「解釈」されるが、範疇的に「知覚」されているわけではないという見解を示している。さらに、呈示順の効果に関して、Gussenhoven-Rietveld effectと関係があるかもしれないという問題提起をしている。


最後の結論の部分(呈示順の話以外)だけ見る限り、とてもわかりやすい話です。ただ、実験結果とその解釈に関しては、いろいろと考えさせられる部分があります、、、
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Praat: ManipulationとExperimentMFCに関するメモ
Praatを使っていろいろと作業をしています。以下はそれに関するメモ。

F0を変える


Manipulationエディタを使えば、F0を変えることができます。ただ、ちょっとずつ違う刺激音をたくさん作らなければならないので、ある程度自動化する方法を考えてみました。
(1) Manipulationエディタ上でstylizeをしておく。
(2) ManipulationオブジェクトからPitch tierを取り出す。(Extract pitch tier)
(3) Shift frequencies(変更する点を含む時間と、F0を何ヘルツ動かすかを指定)
(4) ManipulationオブジェクトとPitch tierオブジェクトの両方を選択してReplace pitch tier
(5) ManipulationオブジェクトからGet resynthesis (PSOLA)
(2)~(5)をfor~endforで繰り返し行えば、刺激音がいっぺんにいくつも出来上がります。

Discrimination task


ExperimentMFCを利用してdiscrimination taskを行うのは、マニュアルどおりにExperimentMFCのファイルを作りさえすれば、簡単です。今知りたいと思っているのは、結果をどうすれば自動的に集計できるか。手作業で数えるのは面倒なので、、、

地味な作業
ソウルに来てから2ヶ月半。共同研究というかたちで、研究がようやく動きはじめました。今までいったい何をしていたのだろうか、という感じですが。

これから行おうとしているのは、ごく大雑把に言えば、日本語と韓国語のイントネーションを対象とした知覚実験です(記事No.20No.21がこれと関係しています)。そのために今行っているのは、実験に用いる文の作成。例えば、日本語に関して、3~4モーラで2番目にアクセント核のある語を探し、その語を含んだ不自然でない文をつくるという具合です。これが案外たいへんな作業です。探し出してみてはじめて気づいたのですが、3~4モーラで2番目にアクセント核のある語というのは、頻度がかなり少ないんですね。しかも、分節音(母音・子音)や音節構造の条件も考慮しなければならないので、なおたいへんです。最初のうちは自分の内省だけで探していたんですが、なかなか見つかりません。そこで『アクセント辞典』をひっぱりだし、1ページずつページをくりながら探す、、、これが、私が今まさにやっていることです。我ながら、なんと地味なことをしているんだろうと思わずにはいれらません。でも、研究にはこのように、しばしば(しょっちゅう?)地味で単純な作業が伴うものなのです。

もっとスマートな方法はないのだろうか?作業をしながらそんなことも考えます。例えば、アクセント型の条件を指定して検索すると、それに該当する単語のリストが現れるという具合に。さらに、分節音や音節構造の条件も指定できれば、完璧です。インターネットで調べてみたら、NHKのアクセント辞典はCD-ROM版が出たようですが、上のような検索ができるのか、、、気になるところです。
NHK日本語発音アクセント辞典 CD-ROM版 / NHK放送文化研究所



テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

羅聖淑 (1974)
最近読んだ以下の論文について、忘れないうちにここにまとめておきます。
羅聖淑 (1974) 「韓国語大邱方言の音韻 ― アクセントを中心に ―」『言語研究』44, pp. 1-44.

この論文は、大邱方言を(SPE流の)生成音韻論の考え方にしたがって分析したものです。アクセントが中心ですが、用言の活用の話も出てきます。ただ、ここではアクセントに関する部分のみまとめることにします。

この論文における大邱方言アクセントの分析には、二つの大きなポイントがあると思います。
・基底形において単語にゼロないし一つのアクセントが指定される。(ここで言うアクセントは、別の言い方をすれば「下げ核」に相当するものです。)
・HːHL...タイプに現れる長母音は、アクセントの反映である。

さらに細かい部分を見ていくと、HːHL...タイプとHHL...タイプの扱いが特徴的です。

まず、HːHL...タイプは、例えば3音節語の場合、↴σσσのように分析されます。(原文ではアクセントのマークは鍵型ですが、ここでは都合上、折れ曲がった矢印にしました。)このタイプを、この論文では「語頭アクセント」と呼んでいます。語頭アクセントという一見奇妙な分析の根拠は、1音節語の場合にピッチが低く始まる点にあるようです。他にも根拠があるように思えるのですが、そのへんはこの論文には明示されていません。

次に、HHL...タイプは、基底ではアクセントがなく、派生の過程で語頭にアクセントが指定されます。長音化がアクセント付与よりも前に順序付けられるために、HHL...タイプでは長音化が生じないと解釈されます。

この論文におけるアクセントの分類を、以前ブログで紹介した김차균 (2002)、および(ブログでは紹介していませんが)Kenstowicz & Sohn (1997)と対照させてみると、次のようになります。









羅聖淑 (1974)、김차균 (2002)、Kenstowicz & Sohn (1997)における大邱方言アクセントの分類(3音節語を例に)
音調羅聖淑 (1974)김차균 (2002)Kenstowicz & Sohn (1997)
HHL거문고, 외아들σσσ(表層では語頭アクセント)去声形σ́σ́σ (doubled)
HːHL무지개, 마누라↴σσσ(語頭アクセント)上声形
HLL며느리, 여드름σ↴σσ平仄形σ́σσ (nonfinal)
LHL비둘기, 덩어리σσ↴σσσ́σ (nonfinal)
LLH ~ LHH얼룩말, 민들레σσσ↴(語末アクセント)平声形σσσ́ (final)


さて、羅聖淑 (1974)においてさらに興味をひくのは、助詞および複合語のアクセントです。基本的には、どちらも同じ規則が適用されます。
・第一要素が語末アクセントの場合、第二要素のアクセントが全体のアクセントになる。
・それ以外の場合、第一要素のアクセントが全体のアクセントになる。

ただし、これには問題があります。第一要素が語末アクセントで第二要素が語頭アクセント(基底で無アクセントのものも含む)の場合です。例えば、羅聖淑 (1974:19)に出てくる次のような例。
san↴ + ↴Dalgi → san↴Dalgi
こういったケースは、他の論文でもいろいろと問題になっているケースのようです。羅聖淑 (1974)の論文では、例は出てくるものの、これをどう扱うかが明示されていません。
なお、김차균 (2002)に関する記事に書いた(1)の例もこのケースに相当します。

カテゴリー知覚の実験を行うためのソフトウェア
前回の記事でカテゴリー知覚のことを書きましたが、実際に実験を行う上での現実的な問題は、どのツールを使うかということです。今までこういった知覚実験を行ったことがなく、学ぶ機会もなかったので、基本的なことから調べはじめています。

まずはPraat
私自身今まで音響分析でよく使っていたソフトですが、ExperimentMFCという機能があって、知覚実験も行えるようになっているようです。Praatのマニュアルによれば、基本的なidentification taskとdiscrimination taskが行えるようになっていて、音声学者の行う知覚実験の90%はこれで事足りるだろうとのこと。もし、もっと高度な(例えば反応時間を計るとか被験者の反応に応じて刺激音が変わるようにするとか)実験を行う場合には、PresentationやE-Primeのようなソフトを使うと良いだろうとも書いてありました。

そんなわけでPresentation、E-Primeなるソフトについて検索してみたところ、以下のリンク集をみつけました。
視知覚関連リンク(木村英司氏)

さらに、ここからリンクをたどってPresentationとE-primeへ。
Presentation
E-Prime
E-Primeは有料で、個人で購入するのはたいへんですが、ここ(高麗大)の心理学科に行けば、もしかしたらあるのかもしれません。まあ、とりあえず今の私にとっては、Praatで十分でしょうが。

カテゴリー知覚
今後行う実験との関連で、「カテゴリー知覚」について勉強しています。参考にしたのは以下の二つの本の中の該当箇所。

音声知覚の基礎 音声知覚の基礎
ジャック ライアルズ (2003/10)
海文堂出版
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Principles of Experimental Phonetics Principles of Experimental Phonetics
Norman J. Lass (1996/01/15)
Mosby-Year Book
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これらをもとに、以下にまとめてみます。

カテゴリー知覚は、Liberman et al. (1957) が初めて報告した現象。(「カテゴリー知覚」が何なのかという基本的な話は、ここでは省略します。)

カテゴリー知覚の実験では、一般に、同定課題(identification task)と弁別課題(discrimination task)の両方を行う。どちらの課題を行う上でも、まず、2種の音を選び(例えば/t/と/d/)、その間で音が連続的に変化していくような複数の刺激音をつくる。そして、その上で同定課題と弁別課題を行う。

同定課題:各刺激音を被験者に聞かせ、どのカテゴリーに属するか(例えば、/t/か/d/か)を答えさせる。

弁別課題:いろいろな方法があるが、最もオーソドックスなのはABX法と呼ばれるもの。
ABX法:ある刺激音と、そこから二コマ離れた刺激音を用いる。まず1番目の刺激音を聞かせ、次に2番目の刺激音を聞かせる。つづいて、3番目の刺激音として、1番目もしくは2番目と同一のものを聞かせる。そして、3番目の刺激音が1番目と2番目のどちらと同じかを当てさせる。

このほかに、4IAX法(Pisoni & Lazarus 1974)という方法がある。
4IAX法:AA-AB(もしくはAB-AA)のように刺激音を提示し、最初のペアと2番目のペアのどちらにおいて2刺激がより違っているかを答えさせる。

(他にもいろいろありそう... Lass ed. 1996: p.538左下 参照)

カテゴリー知覚は、閉鎖音のような場合に典型的に観察される。一方で、母音ではうまく観察されない(Fry et al. 1962)。ただし、課題によっては母音でもカテゴリー知覚が観察されることがある。例えば、母音の持続時間を短くしてみた場合(Fujisaki & Kawashima 1969, 1970)など。

その一方で、非言語にもカテゴリー知覚が観察されるという話もある。


具体的な方法論を知るには、何か論文を読んでみるのがよさそうです。

ところで、カテゴリー知覚に関して、以下のようなページもみつけました。

音声教育とカテゴリー知覚の先行研究 要約集(西郡仁朗氏)

地方踏査
私は今、韓国国際交流財団のフェローとして韓国に滞在しているのですが、今回その財団の지방답사に参加してきました。지방답사というのは、漢字で書けば「地方踏査」。なんだかかっこいいですが、実際のところはただの旅行です。財団のフェローたちが対象で、財団のお金で連れていってくれます。今回は、2泊3日のスケジュールで江原道の雪嶽山や江陵などをまわってきました。実際のところ、こういう団体旅行は個人的にあまり好きではないのですが、今回の旅行はいろいろな点で有意義だったと思います。

一つには、他のフェローたちと知り合う機会を持てたということ。韓国国際交流財団のフェローは何人もいるのですが、それぞれ自分で選んだところに住み、自分で選んだ機関で研究活動をしているので、ふだんは他のフェローと知り合う機会が全くありません。今回、他のフェローたちと初めて会い、彼らがどういうふうに研究を進めているかについて聞けたことは、良かったと思います。(ここで聞いた話を含めて、韓国国際交流財団のフェローというものについて、いずれ詳しく記事を書いてみたいと思います。)

もう一つには、ガイドさんがいて、詳しく説明をしてくれたこと。例えば、江陵の観光名所として、선교장 (船橋荘)という両班(朝鮮王朝時代の支配階級)の屋敷があります。ここに行くのは二度目だったのですが、前回行ったときは適当に眺めただけで、特別な感慨はありませんでした。それが、今回は、朝鮮半島の住居の一般的特徴や両班の屋敷の特徴などについて、ガイドさんの詳しい説明を聞くことができました。例えば、朝鮮半島の住居は온돌(オンドル)と마루(板の間)の両方を備えていること、男性の住まいである사랑채と女性の住まいである안채が別棟になっていること、などなど。そういう話を聞きながら見ると、一度見た建物でも違って見えてくるものだな、と思いました。

ブログに写真を載せたいところですが、カメラを持っていないので載せる写真がないのが残念なところです。


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