マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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への字の法則
最近手にした『韓国語教育論講座 第1巻』をぱらぱらっとめくっていたら,以下の記述が目にとまりました。趙義成先生の「文字と発音の指導法」の中の一節です。


ここで,ピッチの指導について1つのモデルを紹介したい.以下は第2回韓国語教師研修会の教育実習において,茨城大学非常勤講師(当時)の宇都木昭氏が提示された「への字の法則」と呼ばれるものである.
(p.383)


なんと,私の名前が出ているではありませんか。

確かに,韓国語教師研修会の教育実習でそんなことをやりました。短い文を例に挙げ,「への字」型のイントネーションになることを説明し,練習してもらうというものです。けっこう好評だったのを覚えています。学会発表もこれだけ好評だったらいいのに,なんて思ったりしました。でも,まさか本にまで登場することになるとは。

せっかくなので,ここでちょっと補足しておきましょう。教育実習では,いちいち先行研究に言及したりしないので話しませんでしたが,「への字」というのは,日本語の音声に関してよく言われることです。誰が最初に言い出したのかは知りませんが。インターネットで検索すると,たくさんヒットします。以下のような,学会誌に掲載された論考(実践報告)もあります。

中川千恵子 (2001) 「「へ」の字型イントネーションに注目したプロソディー指導の試み」『日本語教育』110号.

私が思うに,日本語(東京方言)の「への字」は記述的にも理論的にも言語教育的にも,いろいろ議論する余地のある問題だと思います。それに対して韓国語(ソウル方言)は,条件が整えばとても綺麗な「への字」になります。(どういう条件かというのもまた,おもしろい問題だと思います。ここでは書きませんが。)

なお,韓国語の「への字」に関心のある方のために挙げておくと,このことと最も関係する拙稿として,以下のものがあります。ここでは「への字」とは一言も言っていませんが,F0曲線(≒ピッチ曲線)を見ればわかっていただけると思います。(特に多音節語の場合です。)

宇都木昭 (2004) 「朝鮮語ソウル方言における引用形のピッチパターン」 朝鮮語研究会(編)『朝鮮語研究2』くろしお出版, 7-45.

朝鮮語研究〈2〉 朝鮮語研究〈2〉
朝鮮語研究会 (2004/11)
くろしお出版

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ちなみに,ここでの「引用形」は,よく誤解されるのですが,単語を単独で発音した形のことです。英語のcitation formの訳語です。文法研究では,「引用形」と言えば「~と」や「~고」のようなものを指すと思いますが,それとは全く関係がありません。

あと,「への字」に関してもう1つ大事な補足です。例の教育実習は私1人のものではなく,グループによるものです。確かに教師役は私でしたし,教える内容に関する基本的な部分の多く(例の「への字の法則」という呼び方を含めて)も私が考えたものですが,それを具体化して授業という形にしたのは,グループ全体によるものです。グループによる準備を通じて,多くのことを学ばせていただきました。同じグループだった先生方にたいへん感謝しております。

韓国語教師研修会を通じて感じ,『韓国語教育論講座』を手にした今改めてまた感じたことですが,韓国語の「への字」は,韻律教育における1つのポイントになりうる思います。このへんのことは,周辺的な問題を含め,ちゃんとしたところにまとめた方がいいのでしょうね。こんなブログにちょこちょこっと書くのではなく。
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テーマ:韓国語 - ジャンル:学問・文化・芸術

遠く離れたところから,再び韓国語教育を思う
『韓国語教育論講座 第1巻』が私の手元にもようやく届きました。わざわざイギリスまで送っていただいて,関係者の方々に感謝いたします。

まだちょっと読んだだけですが,私のように韓国語に関わる者にとって,興味の引かれる内容が盛りだくさんです。いろいろな締め切りに追われる今日この頃なのですが,そんなことも忘れて思わず読みいってしまいました。

それで感じたこと。韓国語教育,特に韓国語音声教育は課題がたくさんありますね。前から感じていたことなので,再確認したというのが正確かもしれません。

私自身は,2005年に1年間だけ大学で非常勤として韓国語を教えました。そのときは,教育に関することにいろいろ興味を持っていたのですが,その後,韓国,イギリスと滞在先を変えながら研究だけの生活をつづけ,教育の現場からはすっかり遠ざかっています。その間の私の研究は,言語教育よりも理論言語学志向のもので,ここ最近その傾向はますます強まるばかりです。でも,この本を読みながら,教育の世界にちょっと引き戻された気がしました。

感じたことはいろいろあります。おいおいこのブログに書いていきたいと思います。



テーマ:韓国語 - ジャンル:学問・文化・芸術

発表採択
3月に申し込んだICPhS(国際音声科学会議)の審査結果が届きました。結果はaccepted,つまり採択。落ちても参加するつもりではいましたが,これでめでたく発表者として参加できます。

審査結果のメールによれば,採択率は66%だったそうです。国際会議ってだいたいこんなもんなのでしょうか?私はよく知りませんが。思ったよりもけっこう落とされるものなんだなと思いました。

ICPhSは8月6日から10日にドイツのザールブリュッケンで開催されます。私の発表はポスター発表です。考えてみれば,国際会議で発表するのもポスター発表をするのも実質的にはじめてです。いちおう,昔韓国にいたときに発表しましたが,そのときは共同研究で私の名前は一番最後だったので,自分の発表という気があまりしなかったし,国際会議とは名ばかりで招待講演者以外の参加者はほとんど韓国人というものでした。あと,2004年の朝鮮語研究会200回記念大会も,「国際学術大会」ということになってますね。でも,これも「国際」といっても日本と韓国だけだし,私の発表言語は日本語だったし…。

それと比べると,今回は本当の国際会議です。しかもものすごく伝統のある国際会議。こちらのコモンルーム(学科の休憩室のようなところ)に昔のICPhSの記念写真が飾ってあるのですが,私にとってほとんど歴史上の人物であるような言語学者たち(ヤコブソン,マルティネ,ダニエル・ジョーンズ,…)が写っています。そういう伝統ある国際会議なんですよね。まあ,昔と今とではだいぶ違うでしょうが。

Praat: 時間を正規化したF0曲線
時間を正規化した(time-normalized)F0曲線というのは,例えば「アメ」という発話においてa,m,eが時間軸上で同じ長さになるようにして示したF0曲線のことです。当然本来のF0曲線とは違ってしまうのですが,それでも敢えてこういうことをする必要が出てくるのは,例えば,2種類のF0曲線を同じ図の中で比べるような場合です。つまり,「雨」と「飴」のF0を比較するような図を作りたい,というときに有効なわけです。

「雨」と「飴」のF0を比べる図をつくるための古典的な方法は,各モーラからそれぞれ一点を選んで測定し,図をつくるというものです。ただ,これだと曲線の形状がわかりません。別の方法は,「雨」と「飴」のそれぞれについてF0曲線を描かせ,その図を2枚並べるというものです。でも,どうせなら1枚の図の中で重ね合わせたほうがわかりやすいです。では,単純に重ねたらどうかというと,個々の発話によって発話速度や持続時間調整にバラツキがあるために,きれいに示せないことがあります。(「雨」/「飴」のように短い発話ではあまり問題がないのですが,長めの発話になった場合,かなりバラツキがでてきます。)そこで,時間を正規化したF0曲線が必要になってくるというわけです。
(ただし,これらの方法は,一概にどれがよいとは言えません。どの方法を用いるかは目的によりけりです。)

時間を正規化したF0曲線は,Praatのスクリプトを利用して描かせることができます。私は,Bert Remijsenが公開しているスクリプトを利用しようかと思っていました。そんなことをBert(ここエディンバラにいる)に話したら,Yi Xuがすごいスクリプトを公開していると教えてくれました。

Bert Remijsenのスクリプト


こちらのページの9番からダウンロードできます。
本人が書いているように,これはあくまでも参考例であって,実際に使うには自分の用途にあわせて修正する必要があります。(そのためにはもちろん,Praatスクリプトの知識が必要です。)

Yi Xuのスクリプト


こちらのページからダウンロードできます。非常に完成度の高いスクリプトで,スクリプトの中身を理解していなくても使えます。

使い方は,

・スクリプトをダウンロードして,スクリプトと音声ファイルを同じフォルダの中に入れる。
・Praatからスクリプトを実行。
・TextGridのウィンドウでセグメンテーション(分節音の境界を指定する)する。
・Continueを押す。
・フォルダの中に.timenormf0というファイルが作られるので,これを何らかのグラフを作るソフト(例えば,Excel)で開き,グラフを作る。

大まかに言うとこんな感じです。(詳しい使い方はスクリプトの冒頭部分に書いてあります。Yi XuのウェブページのFAQも参考になります。)



ただ,Yi Xuのスクリプトはあまりにも「完成されている」ので,自分の目的にあわせて応用したい場合にはやりにくいかもしれません。その場合,むしろBert Remijsenのスクリプトをベースにして,自分でスクリプトを書いた方がやりやすいかも。

論文を英語で書くということの理想と現実
U氏は韓国語の研究者です。
韓国語に関するある説について批判的に検討する研究をしています。そして,論文をせっせと日本語で書いて発表しています。

でも,U氏が検討している説の提唱者は韓国人で,韓国語と英語は理解しますが,日本語で書かれたものはいっさい読めません。関連する研究している人の多くも韓国人や欧米の研究者で,その大半はやはり日本語で書かれたものは読めません。それではU氏はいったい何のために論文を書いているのでしょうか?

答えは簡単です。それは,研究業績という名のポイントを稼ぐためです。それによって研究者は書類上で評価され,ステップアップしていくことができるのです。その論文が読まれるかどうかはどうでもいいことなのです。

***

実はU氏とは私のことです。
韓国語に関する論文を日本語でいろいろと書いてきました。でも,それについて疑問は感じてきました。論文というのは,本来読まれるためにあるもの。他の研究者に読まれることで議論が生じたり影響を与えたりして,それによって学問は発展していくのです。本来読まれるべき人に読んでもらえないような言語で書いては,本当はあまり意味がないわけです。

(補足1:もちろん,全然意味がないわけではありません。私の研究は日本における韓国語音声研究においても意味があるかもしれず,そういう応用的なことに関心がある日本の研究者・教育者には読んでもらえるかもしれません。ただ,私の研究の最も本質的な部分は理論的なものであり,その部分で学問的貢献がちゃんと出来ないということです。)

(補足2:むこうが日本語ができないのが悪いんだと言う人がたまにいますが,それは暴論だと思います。いくら韓国が世界一日本語学習者人口の多い国だといっても,韓国語を研究している韓国人が日本語を学ぶ義務はないと思います。英語に関しては,好むと好まざるとに関わらず,それが学問の世界で最も通用する言語になっている以上,できると想定されるのは仕方のないことだと思いますが。)

そんなわけで,ちょっとずつ英語で論文を書くようにしています。はじめて英語で論文を書いたのは2003年のことで,昨年(2006年)からは,ほとんどの論文を英語で書いています。韓国語で書いてもいいわけですが,あえて英語で書いているのは,韓国語のわからない一般言語学的な言語学者にも,韓国語の研究成果はインパクトを与えうると思うからです。これは,こちら(イギリス)に来て,ますます感じるようになったことです。

日本でいろいろな言語を研究している人たちが,研究成果をもっと英語で発表するようになったらと思います。おもしろい研究をしている人たちはたくさんいて,その人たちの研究は一般言語学的に価値のあるものだと思います。そうした研究は,英語で発表することによって,もっと広く知られるところとなり,学問的貢献もはるかに大きくなるはずです。でも,実際に英語で論文を発表している人はあまりいません。そして,一部の英語学者だけが,海外では日本を代表する言語学者として認知されていくのです。

でも,一つの現実的な問題は,英語で論文を書くということが決して簡単なことではないということです。これは,英語を母語とする人たちには理解してもらえないかもしれません。英語を専門とし,英語が出来て当たり前の英語学者たちにも理解してもらえないかもしれません。でも,多くの日本の研究者にとっては,英語で論文を書くのは本当に本当にたいへんなことなのです。

私自身もそうです。はじめて英語で論文を書いたときは本当にたいへんでした。最近は多少慣れてはきましたが,それでもまだ楽なことではなく,かなり時間がかかります。私が論文を英語で書いていられるのは,研究だけをしていればいいという恵まれた環境にあるからかもしれません。日本で専任のポストについていたら,忙しくて論文を書く時間が十分にとれず,手っ取り早く業績を稼ぐために今でも日本語で論文を書いているかもしれません。

***

・・・でも,一方で思うこと。

英語で論文を書くことによって,けっきょく日本人にも韓国人にも論文を読まれなくなってしまうのではないか。

英語で論文を「書く」という以前に,英語の論文を「読む」ことすらしない人が,英語学以外の言語学系の分野では実は多かったりします。まあ,確かに読むことだってたいへんです。でも,それではすまされないことが,ときとしてあると思うのですが・・・。

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