マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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Clark (1973)
Clark, Herbert H. (1973) The language-as-fixed-effect fallacy: A critique of language statistics in psychological research. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior 12. 335-359.

聴講している授業で薦められていたので,ざっと(飛ばしながら)読んでみました。言語研究における統計の使い方に関する古典的論文だそうです。



心理学や心理言語学で言語を扱う場合に,これまでの研究の多くは,被験者を変量効果(random effect)とする一方で,言語に関するもの(語,句,文など)は固定効果(fixed effect)としてきた。しかし,それは間違いであって,言語もまた変量効果にしなければいけない。・・・というのが基本的な主張です。このような間違いを著者は,"language-as-fixed-effect fallacy"と呼んでいます。

この論文では,いくつかの論文を例に,固定効果とされた語の要因を変量効果として計算しなおした場合,有意とされたものが有意でなくなってしまうことを示しています。



この論文は心理学者や心理言語学者を主な読者として想定していると思いますが,私がやっているような実験音声学,実験音韻論的な研究にももちろん当てはまるはずです。複数の文を複数の被験者に読んでもらって,F0なりその他の音響的特徴なりを測定するわけです。そこで用いる文は,その言語における全ての文ではありませんから,当然,変量効果です。

このように変量効果が二つ(例えば,被験者と語)の場合,より複雑な統計学的手法が必要となってきます。困ったものです。

で,その具体的な手法については,論文の中に書いてあります。授業では,その他の最近提案された方法も教えてくれました。後で試してみようと思っています。
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停電
今日の午前中,いつものように大学に行き,研究室のある建物に入ろうとして,中が薄暗いことに気づきました。まさか,と思ったら,やはりそう。停電でした。

今日は大学に行くのが遅かったので,とりあえずすぐ昼食をとることに。窓があるおかげでかろうじて明るいコモンルーム(談話室)で昼食を食べ,外にテイクアウト(イギリス英語ではtake away)のコーヒーを買いに。そして戻ったら,今度は建物全体が立ち入り禁止に。仕方がないのでフラットに帰ってきました。


停電


↑立ち入り禁止になった後の建物の入口付近。管理スタッフのおじさんが入口の前で事情を説明しています。

ちなみに先週の火曜日にも停電がありました。前回も今回もそうですが,学内の多くの建物が停電になり,ネットワークが使えなくなったりとか,かなり広範囲に影響が及んでいます。前回は停電が起きたのは夕方5時ごろでしたが,今回は午前中からなので,多くの人が仕事に支障をきたしているはず。こんなときに大事な仕事の締め切りとか抱えていたら,たいへんでしょうね。

ちなみに前回の停電は,大学のウェブサイトによれば,変電所の火事が原因だったようです。今回も同じ原因なのか・・・。

正規化が必要になるとき (1)
以前の記事のコメント欄で質問をいただいていた,音声学における正規化(normalization)について,もう少し詳しく書いてみることにします。

正規化が必要になるケースというのは,研究目的によりけりだと思います。そして,そういうケースというのは,さほど多くはないんじゃないかと思います。私の知っているいくつかのケースを挙げてみることにします。

F0の正規化



ピッチを音響音声学的に分析するには,ふつうF0(基本周波数)をみます。このF0,話者によって高さや幅がかなり違います。そのため,複数の話者のF0を扱う上で,F0を正規化するという方法があります。

・藤崎・杉藤(1977:89-90)の方法:F0曲線を縦軸が対数のグラフ上に描き,各話者の平均が同じになるように平行移動する。

・Zスコア:Rose(1987), キャンベル(1997)など。私も以前まねしてみたことがあります(宇都木 2003)。

・もっと簡単な方法:斎藤(2001)は,上の二つの方法を紹介するとともに,別の方法についても述べています。

また,あまり高級なやり方でなはいが,各話者の発話におけるいちばん高いところを100,いちばん低い部分を0として百分率で表すという方法で,ある程度正規化できる。また,この正規化の問題は,声の高さや幅の類似した話者をインフォーマントとして使うことで,いくらかは避けられるようである。


ただ,複数の条件下の測定値を比較するという場合(例えば,「橋」と「端」のF0ピークを比べる,など),話者間の差異の問題は統計によって解決できるので,たいていの場合正規化は必要ないんじゃないかと,私は最近考えています。つまり,反復測定の分散分析を使う(あるいは,原理的にたぶん同じことだと思いますが,「話者」を変量効果要因(random-effects factor)とした多元配置の分散分析を行う)ことで済むのではないかと思うのです。

ただし,複数の話者の複数の発話を平均化したF0曲線を描きたい,というような場合には,正規化した上で平均化した方がいいでしょう。その場合,以下の時間軸の正規化もあわせて行う必要があります。

F0曲線の時間軸の正規化



これは,以前の記事で取り上げたものです(その1その2)。複数のF0曲線を重ね合わせる場合に有用です。また,上に書いたような複数のF0曲線を平均化した曲線を描く場合にも必要となるでしょう。

一方で,時間軸をいじるために形状が変わってしまう点に注意すべきです。必要性があるとき以外は,正規化する必要はないでしょう。

私は,韓国語馬山・昌原方言の論文(Utsugi 2007)でこれを使いました。細かく把握してはいませんが,こういった方法を用いている人は多いんじゃないかと思います。上に挙げた藤崎・杉藤(1977)も使っています。



F0以外については,また後で書く予定です。キャンベル(1997)がやっていることが中心になるだろうと思いますので,次の記事まで待てない方(がどれだけいるかわかりませんが・・・)は,そちらの論文を参考にしていただければと。



参考文献


キャンベル,N. (1997) 「プラグマティック・イントネーション:韻律情報の機能的役割」音声文法研究会(編)『文法と音声』くろしお出版.
文法と音声 文法と音声
音声文法研究会 (1997/05/23)
くろしお出版

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藤崎博也・杉藤美代子 (1977) 「音声の物理的性質」『岩波講座 日本語5 音韻』岩波書店.

Rose, P. (1987) Considerations in the normalization of the fundamental frequency of linguistic tone. Speech Communication 6. 343-351.

斎藤純男 (2001) 「音調の分析」城生佰太郎(編)『日本語教育学シリーズ 第3巻 コンピュータ音声学』おうふう.
コンピュータ音声学 (日本語教育学シリーズ) コンピュータ音声学 (日本語教育学シリーズ)
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宇都木昭 (2003) 「朝鮮語ソウル方言におけるフォーカス発話と中立発話のピッチパターン -修飾語+被修飾語の構造の場合-」 朝鮮語研究会第200回記念国際学術大会, 東京外国語大学. (発表論文集 pp.86-101.)

Utsugi, A. (2007) The interplay between lexical and postlexical tonal phenomena and the prosodic structure in Masan/Changwon Korean. ICPhS 2007 Satellite Meeting: Workshop on "Intonational Phonology: Understudied or Fieldwork Languages," Saarbrücken, Germany.

SOASの韓国学セミナー
ロンドンのSOAS(School of Oriental and African Studies)に行ってきました。SOASというのは,ロンドン大学の中のカレッジの一つです。文字通り,東洋とアフリカの地域研究を主としたところで,日本学や韓国学の学科もあります。言語学科もあって,そこにはかつてJ. R. Firthがいたりしました。私が今回行ってきたのは,SOASの韓国学研究センター。セミナーに講演者として呼ばれたためです。

呼ばれたのは,言語学とは全く関係ない縁によるものでした。以前韓国に交換留学していたときの友人がSOASの韓国学科出身で,その友人がすすめてくれたのです。こちらとしても,イギリスのコリアニストと知り合いになりたかったので,半ば自分から押しかけていくような形で,講演者になったというわけです。(こういう機会って,どういうところから生まれるかわからないものだなと,つくづく思います。その友人は韓国学科出身とは言え専門としていたのは言語学ではなく経済ですし,知り合ったときはただの交換留学生仲間だったわけですから。)

聴きにくる人の大半は音声学・音韻論のことをよく知らないだろう(というか,言語学が専門でない人もかなりいるだろう)ということで,広く浅く話そうと準備しました。テーマは韓国語ソウル方言と慶尚道方言の韻律について。いくつか気をつけたのは,用いる術語を必要最小限にとどめること,最初にそれらの術語をちゃんと説明すること,理論的な話はあまりせず用例を中心に話すこと,など。

結果は,まあまあうまくいったと思います。質疑応答のときに,言語学が専門でない人からも結構質問が出たところを見るに,関心を持ってくれたようです。その一方で,意外に,専門的な質問も出ました。韓国語学をやっている人もいたし,(韓国語ではないけれど)韻律を研究している言語学の人も来ていたようです。質疑応答ではけっこう専門的な議論もありました。

ただ,いつものことですが,質問がよく聞き取れないことがあるのが,つらいところです。質疑応答が盛り上がるのはうれしいのですが,盛り上がれば盛り上がるほど,ついていくのが辛くなってきます。全て終わった後で,「ああ,あの人はこういう意味で質問していたのか・・・だったら,こう答えておくべきだった」と思ったり。やはり英語をもっと勉強しないと・・・。

まあ,何はともあれ,無事に終わって何よりです。何よりうれしかったのは,終わったあとで,言語学が専門じゃない人が話しに来てくれて,「言語学の話と聞いて全然わからないんじゃないかと不安だったけど,結構わかりやすかった」と言ってくれたことでした。

テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

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