マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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Jun et al. (2006)
J. Jun, J. Kim, H. Lee, and S.-A. Jun (2006) The prosodic structure and pitch accent of Northern Kyungsang Korean. Journal of East Asian Linguistics 15, 289-317.

以前に部分的に読んだ論文ですが,改めて通して読み直してみました。私の研究と密接に関わる先行研究です。




韓国語慶尚北道方言ではピッチが弁別的である。これには,4つのクラスがある。【ちなみにここでの慶尚北道方言とは,後に著者の1人に直接確認したところによれば,大邱方言だそうです。】

Initial: 第1音節が高い
Penult: 次末音節が高い
Final: 最終音節が高い
Double: 第1音節と第2音節が高い

この論文では,音響分析を行うことで,この方言の韻律構造とピッチアクセントを明らかにしている。【なお,ここでの「ピッチアクセント」というのは,日本のアクセント研究でよく用いられるところの「ピッチアクセント」とは異なります。日本でよく用いられる用語では,「アクセント核」に相当するものです。】

まずは,トーンがどのように指定されるかを検討している。それによれば,ピッチアクセントはH*+Lである。Doubleの場合,H*は第1音節と第2音節の両方にリンクする。韻律語の初頭には%Lが指定される。%LとH*の間には表層においていかなるトーンも指定されず,ピッチの実現においてはinterpolationが生じる。H*+LのLはアクセントの置かれた音節の直後ではなく,2~3音節後に実現することが多い。

つづいて,様々なアクセント型の組み合わせに対してフォーカスを置いた場合にどうなるかを検討している。それによれば,フォーカスの置かれた語がFinal以外の場合,後続語がダウンステップする。一方,フォーカスの置かれた語がFinalの場合は後続語がアップステップする。これは,H*+Lがダウンステップのトリガになるのに対し,FinalにおいてはH*+LのLが削除され,このH*がアップステップのトリガになるのだと説明される。

一方,フォーカスのおかれた語自体は,それより前の語のアクセント型に関わらず,ダウンステップもアップステップも生じない。このことから,フォーカスの置かれた語の直前には中間句(intermediate phrase)の境界があると解釈される。中間句はダウンステップとアップステップのドメインとなる。

なお,ダウンステップにおいて,中間句内の複数のアクセントの間には谷がある。そしてこの谷は語頭に現れる。このことは,%Lの指定されるドメインが中間句ではなく韻律語であることを示している。また,アップステップにおいて谷が現れないことから,アップステップはH*のみならず%Lに対しても生じていると考えられる。

中間句よりも上位の句としては,イントネーション句(intonation phrase)が設けられる。イントネーション句の句末には境界音調が指定される。つまり,この方言は,韻律語<中間句<イントネーション句という階層構造を持っている。




というわけで,Pierrehumbert & Beckman (1988) による日本語の韻律の分析とよく似ています。

ちなみに,%LからH*にかけてのinterpolationに関しては,私が昨年発表した論文の中で批判的に扱いました。そこでの結論は,Jun et al. (2006)が言うように徐々に上昇するのではなく,アクセントの直前まで低平でそこから急激に上昇する ―つまり,アクセントの直前にターゲットがある― というものでした。今はその論文を加筆修正してどこかに投稿しようとしているわけですが,そこではダウンステップ・アップステップの問題にも少し触れる予定です。

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