マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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昌原方言の韻律句形成(金次均 2002より)
前回の記事に引き続き,金次均氏の本に関する話です。

김차균 (2002) 영호남 방언 운율 비교. 역락.

第9章に興味深い話がありました。

この方言のピッチを文レベルでみたときに,本来の(単語単独の場合の)ピッチと比べてどのような変化があるか。著者は2通りの変化があると述べています。
A.. 声調形の結合
B. 音調形の弱化

# この著者が「声調」と「音調」をどういうふうに使い分けているのか,私にはいまいちよくわかりません。それはともかく,この2つの変化が意味するところはだいたいわかりました。以下は私の言葉で説明します。

Aは複合語トーン規則と同じ規則に従って変化するというもの。例えば,(1)が本来のトーンで,これが(2)になるというもの。

(1) ppee # mukcci # malko
  MM   HM    LM
(2) ppee mukcci malko
  HH   MM  MM

# 例はp.262 (74)より。
# 私はH(高音調)とL(低音調)の2つで表記してきたのですが,ここはとりあえず著者の表記に従って,H,M,Lの3段階の表記に。

Bは本来のトーンをとどめつつ,ピッチレンジが狭まるというもの。著者はこの場合をh, m, lというように小文字で表記しています。この場合,(1)は(3)のように発音されるとのこと。

(3) ppee mukci malko
  HH   hm  lm

著者はこの現象について,以下のように整理しています。

(4) (= p. 264 (78),拙訳)
a. 1つの語節は伝達のフォーカスになったり強調または対照されるとき強勢を受ける。
b. 1つの文の中で,声調形(/音調形)の結合の領域は,強勢を受ける語節から次の強勢を受ける語節の直前の語節までである。
c. 1つの文の中で,声調形(/音調形)弱化の領域は強勢を受ける語節の直後の語節から次の強勢を受ける語節の直前の語節までである。
d. ただし領域内で声調形の結合が生じるか音調形の弱化が生じるかは任意的である。

# (4a)でなぜ「1つの」という修飾語がつくのかよくわからないです。私の訳し方が悪いのか・・・?
# なお,「語節」というのは韓国の国語学の用語で,日本の「文節」に似た概念です。
# 「強勢」と書かれているのは,別の言い方をしたほうがいいでしょう。「プロミネンス」かな・・・。

要するに,(4b)がAに,(4c)がBに対応しているわけです。

なお,(4d)に関しては次のようにも述べています。以下は私の言葉におきかえてまとめたものです。

(5)
a. 語節内の形態素間では弱化(B)よりも結合(A)をすることが多い。
b. 語節間では結合(A)よりも弱化(B)をすることが多い。

(6)
a. 疑問詞や否定の안などが先行する場合は長く結合することがある。
b. aのケースを除けば,2~3の語節を超えて結合することはない。
c. bのケースにおいても,音節数が少ないほど結合しやすく,多いほど結合しにくい。

(6a)の疑問詞や否定の안に関しては,別のところで詳しく書かれていました。これについては後日あらためてまとめてみます。

次のようなことも書かれていました。


特別な場合を除けば,声調形の結合は2つの成分が修飾・被修飾の関係にあったり,目的語と他動詞の間の場合が多く,主語と自動詞の結合もときどき現れる。{-・아/・어}語尾を持つ本動詞と助動詞,合成動詞などの場合はさほど結合する方ではない。(p.265f. 拙訳)


こういう話,おもしろいと思いませんか?(誰に向かって話しかけているんでしょう?(笑))




なお,ちょっと似たような話,私も論文の中で書きました。昨年夏にポスター発表した馬山・昌原方言の韻律に関する論文。そこでは,フォーカスをおいた場合に,フォーカスのある語から後続の語にかけて1つの韻律句にまとまる場合と,2つに分かれて後ろのピッチレンジの上限が抑えられる場合があると書きました。上のAとBにほぼ対応します。全く同じではありませんが。

上の(2)と(3)の例では,実は両者は弱化の程度の違いだという解釈も成り立ちます(つまり,(2)は極端な弱化のケースだと)。私が調べた中では,AとBがはっきり違った現れ方をするケースがいろいろ観察されました。

私の論文と金次均氏の本では,同じ方言を扱っています。(というか,金次均氏はこの方言のネイティブ。)ただし,世代がかなり違います。私が若い世代に関して観察したことが,もっと上の世代でも同じように起きているというのが,私にとって非常に興味深かった点です。ただ,私の論文の中では,トーンのレキシカルな型(いわゆる「アクセント型」)とA/Bの現れ方の関係をいろいろ見たのですが,この本ではそのへんがわからないのが残念な点。本に収められている資料を自分で見ていけば,わかるのかもしれませんが。

あと,音節数に関する話は,私の論文と一致する点です。これに関しては,別の方言にも観察されました。今年の夏に大邱方言に関して発表します。

まあ,本来だったら,自分の論文を発表する前にこの本に目を通していて,論文中で言及をすべきだったのですが。改訂の際にはもちろん言及します。




なお,金次均氏の本の中では,弱化した場合の具体的なピッチの現れ方についても述べられています。それによれば, h (Hの弱化したもの)は H より低めに現れるが l (Lの弱化したもの)は L より高めに現れると述べています(p.265ff.)。これがもし本当だとしたら,一般的な韻律理論の観点からしても重要な意味を持つことだと思います。でも,本当なのか・・・私はちょっと懐疑的ですが。

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