マルソリ・ラボ
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羅聖淑 (1974)
最近読んだ以下の論文について、忘れないうちにここにまとめておきます。
羅聖淑 (1974) 「韓国語大邱方言の音韻 ― アクセントを中心に ―」『言語研究』44, pp. 1-44.

この論文は、大邱方言を(SPE流の)生成音韻論の考え方にしたがって分析したものです。アクセントが中心ですが、用言の活用の話も出てきます。ただ、ここではアクセントに関する部分のみまとめることにします。

この論文における大邱方言アクセントの分析には、二つの大きなポイントがあると思います。
・基底形において単語にゼロないし一つのアクセントが指定される。(ここで言うアクセントは、別の言い方をすれば「下げ核」に相当するものです。)
・HːHL...タイプに現れる長母音は、アクセントの反映である。

さらに細かい部分を見ていくと、HːHL...タイプとHHL...タイプの扱いが特徴的です。

まず、HːHL...タイプは、例えば3音節語の場合、↴σσσのように分析されます。(原文ではアクセントのマークは鍵型ですが、ここでは都合上、折れ曲がった矢印にしました。)このタイプを、この論文では「語頭アクセント」と呼んでいます。語頭アクセントという一見奇妙な分析の根拠は、1音節語の場合にピッチが低く始まる点にあるようです。他にも根拠があるように思えるのですが、そのへんはこの論文には明示されていません。

次に、HHL...タイプは、基底ではアクセントがなく、派生の過程で語頭にアクセントが指定されます。長音化がアクセント付与よりも前に順序付けられるために、HHL...タイプでは長音化が生じないと解釈されます。

この論文におけるアクセントの分類を、以前ブログで紹介した김차균 (2002)、および(ブログでは紹介していませんが)Kenstowicz & Sohn (1997)と対照させてみると、次のようになります。









羅聖淑 (1974)、김차균 (2002)、Kenstowicz & Sohn (1997)における大邱方言アクセントの分類(3音節語を例に)
音調羅聖淑 (1974)김차균 (2002)Kenstowicz & Sohn (1997)
HHL거문고, 외아들σσσ(表層では語頭アクセント)去声形σ́σ́σ (doubled)
HːHL무지개, 마누라↴σσσ(語頭アクセント)上声形
HLL며느리, 여드름σ↴σσ平仄形σ́σσ (nonfinal)
LHL비둘기, 덩어리σσ↴σσσ́σ (nonfinal)
LLH ~ LHH얼룩말, 민들레σσσ↴(語末アクセント)平声形σσσ́ (final)


さて、羅聖淑 (1974)においてさらに興味をひくのは、助詞および複合語のアクセントです。基本的には、どちらも同じ規則が適用されます。
・第一要素が語末アクセントの場合、第二要素のアクセントが全体のアクセントになる。
・それ以外の場合、第一要素のアクセントが全体のアクセントになる。

ただし、これには問題があります。第一要素が語末アクセントで第二要素が語頭アクセント(基底で無アクセントのものも含む)の場合です。例えば、羅聖淑 (1974:19)に出てくる次のような例。
san↴ + ↴Dalgi → san↴Dalgi
こういったケースは、他の論文でもいろいろと問題になっているケースのようです。羅聖淑 (1974)の論文では、例は出てくるものの、これをどう扱うかが明示されていません。
なお、김차균 (2002)に関する記事に書いた(1)の例もこのケースに相当します。

コメント
この記事へのコメント
무지개のアクセント
表の中の例を修正する必要がありそうです。ここに出した例は、羅聖淑 (1974) から取ってきたものですが、他の論文を見ると、羅聖淑 (1974) の記述と一致しないものがあります。

具体的には、HːHLとして挙げた무지개。今読んでいる大江(1976)では、HHLになっています。かつて読んだ김차균 (2002)( http://utsakr.blog65.fc2.com/blog-entry-13.html )には大邱のとなりの星州の方言の例が挙げられていますが、そこでもやはり長音ではありません。羅聖淑氏の内省では長音なのかもしれませんが、私の表の中でHːHLタイプの典型として出すのは不適切でしょう。이야기など、他の例に変えたほうがよさそうです。
2006/06/10(土) 13:36:01 | URL | A. Utsugi(管理者) #CLXOJKfA[ 編集]
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