マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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Kenstowicz, Cho, and Kim (2008)
Michael Kenstowicz, Hyesun Cho, and Jieun Kim (2008) A note on contrasts, mergers, and acquisitions in Kyungsang accent. Toronto Working Papers in Linguistics 28, 107-122.

大邱方言・釜山方言のアクセントと中期朝鮮語や現代朝鮮語咸鏡道方言のそれとがどう対応しているかをRamsey (1975) にそって示し,いくつかの型が大邱方言・釜山方言の単語単独形においてmergeしていることを示している(例えば釜山方言における2音節語のLHなど)。さらに,音響分析により,それらが本当にmergeしていることを確認している。また,中期朝鮮語との関係において例外的な対応を示すものについて,その理由を考察している。




中期朝鮮語と現代諸方言の対応関係,およびそこに見られるmergerについては,よく知られていることです。それを実際に音響分析によって測定してみたのが新しいところ。研究ノートということで,インフォーマントは各方言とも一人ずつです。

なお,この論文の中で言及されていた他の興味深い論文。
Michael Kenstowicz and Chiyoun Park (2006) Laryngeal features and tone in Kyungsang Korean: A phonetic study. Studies in Phonetics, Phonology, and Morphology 12. 247-264.

慶尚道方言における平音・激音・濃音とピッチの関係を扱った論文のようです。私も気づいていた現象ですが・・・先にやられていたようです。

Hyman (2006)
Hyman, L. M. (2006) Word-prosodic typology. Phonology 23. 225-257.

この論文では,単語の韻律の類型論について論じています。つまり,ストレス言語とか声調言語とか,そういう話です。著者の主張はとてもシンプルで,ストレスとトーンによって分類するというものです。著者はそれぞれを次のように定義しています。


A language with tone is one in which an indication of pitch enters into the lexical realisation of at least some morphemes.
(p.229)



A language with stress accent is one in which there is an indication of word-level metrical structure meeting the following two central criteria:
a. obligatoriness: every lexical word has at least one syllable marked for the highest degree of metrical prominence (primary stress);
b. culminativity: every lexical word has at most one syllable marked for the highest degree of metrical prominence.
(p.231)


言語によっては,ストレスとトーンの両方の基準を満たすものもあります(例えば,スウェーデン語)。一方で,どちらも満たさないものもあります(例えば,ベンガル語)。したがって,4つのタイプに分けられるわけです。

なお,上のストレスの定義には,2つのポイントがあります。一つは,最大のmetrical prominenceが一つだということ。二つ以上のものがあったり,無いものがあったりしてはいけないわけです。日本語東京方言のアクセント核はmetrical prominenceとみなせるかもしれませんが,無核語の存在があるため,ストレスの定義に当てはまらないわけです。

もう一つのポイントは,「音節」にmetrical prominenceがあるということ。「モーラ」ではいけないわけです。

# 東京方言の場合,アクセント核の位置を指定する際,モーラで数えるけれど音節に付与されるという話がありますが,そういう場合どう考えるんでしょうね?

このHymanの類型論の特徴は,日本語東京方言のようなタイプのピッチアクセントを独立した類型として認めないという点にあります。toneには 'restricted tone system' であるかどうかという点において様々なレベルがあり,restrictedの側の極に東京方言があるというわけです。

# ちなみに日本では,「ピッチアクセント」という用語を広くとり,その下位分類として声調を位置づけたりすることがあります。この場合の「ピッチアクセント」は,Hymanのtoneの定義に近い(というか,同じ?)と思います。

ストレスともトーンともとれるようなケースも挙げられています。Gussenhoven (2006) によれば,ヌビ語は,語の中でただ一つの音節のピッチだけが高くなるとのこと。上の基準ではこれは,ストレスともトーンともとれます。


Gussenhoven (2006) appropriately suggests that the Nubi prosodic system is ‘pivotal’ in
that its obligatory one-H-syllable-per-word may be interpreted either as SA or restricted T.
(p.241)


(SAはstress accent, Tはtoneのこと。)



著者の主張 ― 特にトーンとピッチアクセントに関する話 ― はかなり納得できます。中国語のようなタイプと日本語東京方言のようなタイプの間にはいろいろな中間段階があって,スパッと分けるのは難しいだろうなと思います。

一つおもしろかったのは,ストレスがあるかないかの問題について書かれている箇所でした。


Researchers who operate under the assumption that all languages have SA may read stress into the phonetic variations they hear or observe instrumentally. Since many tone systems are adequately described with no mention of SA, I am less inclined to posit SA in non-tonal languages which make it so hard to find evidence of stress, e.g. Bella Coola (§4), some variants of Berber and a number of languages of Ethiopia and the Indian subcontinent (Hyman 1977b). In other words, we might say: if word-stress is so hard to find, perhaps it is not there at all.
(p.246)


私は,一部の人たちが主張する韓国語ソウル方言の「アクセント」(ここでいう「ストレス」に近い)の話を思い出しました。(私が修士論文で扱ったテーマです。)私は,そこで言われている「アクセント」はとても怪しいと思っていますが,同じように怪しい話はあちこちにあるようです。

さすがハイマン。Hyman (1977b) も読むとおもしろいかも。


Bybee (2002)
Bybee, J. (2002) Word frequency and context of use in the lexical diffusion of phonetically conditioned sound change. Language Variation and Change 14, 261-290.

前回の記事以来lexical diffusionのことが気になって読んでみました。




青年文法学派によれば,音変化は例外なく起きる。しかし,実際にはそうとは限らないということが,Wangら(Wang 1969, 1977, Wang & Cheng 1977)によって明らかにされた。彼らによれば,長い時間をかけて語ごとに生じるような変化があるという。この問題は,Labov (1981, 1994) によっても扱われた。彼によれば,音変化には二つのタイプがあるという。一つはregular sound changeである。これは,漸進的で音声的に動機付けられ,語彙的・文法的条件がなく,社会的意識に影響されないものである。もう一つはlexical diffusionで,Wangによって明らかにされた現象がこれに相当する。これは単語におけるある音素が別の音素によって突然置換された結果であるという。しかし,このようなLabovの分類に対し,実際には音声的レベルでの変化でもlexical diffusionが起きるという議論がある。

この論文ではまず,漸進的で音声的な変化においてもlexical diffusionが生じており,それが頻度の影響を受ける ― つまり,高頻度の語に先に変化が生じる ― ことを,アメリカ英語におけるt/dの脱落などを例にとって示している。

さらに,こうしたケースがexemplar modelによって説明できることを論じている。




後半のexemplar modelの話は,関心のあるところではありますが,今回はパス。おおまかなところは知っているつもりですが,後でじっくり勉強しようと思っています。

この次の記事で,exemplar modelのことをもう少し書きます。

Coetzee & Pater (to appear)
Coetzee, A & Pater, J. (to appear) The place of variation in phonological theory. To appear in the Handbook of Phonological Theory.

これは今度のミーティングでディスカッションすることになる論文。新しく出るThe Handbook of Phonological Theory(第2版)の一つの章で,変異について扱っています。



この論文では,まず音韻論の枠組みを振り返ることから始めている。生成理論における音韻論では一般的に次のような枠組みが想定されている。

lexicon -> early phonology -> late phonology -> phonetic implementation

※early phonology, late phonologyはlexical phonology, post-lexical phonologyと呼ぶことも出来るが,ここでは理論的に中立的な用語としてearly/lateを用いている。

early phonologyとlate phonologyの違いをどう見るかは理論的立場によって様々であるが,一つの大きな違いは,前者が形態論と関わるのに対し,後者が関わらない点にある。そして,変異はlate phonology(ないしphonetic implementation)の問題とみなされがちであった。しかし,この論文では,変異がearly phonologyとも関わることを示している。

具体的な例として英語におけるt/dの脱落を扱っている。この現象は,音声的な現象とみなされることがある(例えば,Browman & Goldstein 1990のデータに基づくBybee 2000の議論)。しかし,実際には形態論と関わることがある。例えば,mistとmissedではmistの方が脱落が起きやすい。これは,前者の/t/が単一の形態素の一部であるのに対し,後者の/t/が独立した形態素を成しているためである。

このような現象を分析するアプローチとして,まずLabov (1969)によるvariable ruleを紹介した上で,OTにおけるpartially ordered constraints (POC) (Kiparsky 1993, Antilla 1997)を紹介している。POCでは,制約の配置が固定されておらず自由に動く部分があり,それによって変異が説明される。

さらに,標準的なOTから離れたアプローチとして,Stochastic OT, Noisy Harmonic Grammar, MaxEnt HGを紹介している。

つづいて,変異における語彙的な要因について論じている。つまり,個々の語彙によって変異の現れ方に違いがあるということである。これに対するアプローチとしては,Pater (2000) によるlexically indexed faithfulness constraintsと,inputにおいてfaithfulnessの強さに関する定数を指定するやり方を紹介している。




OTの話ばかりで,あまり興味が持てず,途中からかなり読み飛ばしてしまいました。OTよくわからないし・・・。ただ,一つわかったのは,OT的なアプローチはいずれも,インプットに変異は認めず,制約の部分で変異を説明しようとするのだということです。

この論文では非OT的なアプローチはほとんど紹介されていませんが,私はむしろ,そっちの方(例えば,BybeeやPierrehumbertのようなexemplar-based model)でどう扱うのかに興味があります。きっと,この論文で扱われているような類の変異は,レキシコンの中に存在していると考えるのでしょうね。

Lindblom (1986)
Björn Lindblom (1986) Phonetic universals in vowel systems. In J.J. Ohala and J.J. Jaeger (eds.) Experimental Phonology. 13-44. New York: Academic Press.

聴講している授業のリーディングの課題ということで読んでみました。・・・といっても全部は読んでいないのですが。




母音の体系にはある程度普遍性がある。例えば,3母音体系においては/i/ /a/ /u/という組み合わせが多いというように。この論文では,このような普遍性は音響的に各母音間の距離を最大限にしようとするためだという仮定のもと,この仮定にもとづいてモデル化してシミュレーションした結果と実際の言語における傾向とを比べている。

まず,Liljencrants & Lindblom (1972) による同様の試みを紹介している。ここでは,F1-F2空間における各母音間のユークリッド距離をもとに計算をしている。その結果は,実際の言語における傾向とやや異なるものであった。具体的に問題としては,例えば,9母音以上の体系においてモデルにもとづくと5つの高母音を予測してしまうというものがある。

そこでこの論文では,モデルをより複雑にし(F2よりもF1に重みをつける,他の音響的特徴を加える,など),シミュレーションをしている。その結果は,Liljencrants & Lindblom (1972)よりも遥かに,現実の言語の傾向に近いものであった。

ただし,それでもまだ完全に現実と一致しているとは言えず,課題を残している。




1986年という,ちょっと古めの論文です。その後この方向の研究はどういう展開を見せたのだろうかと気になって,Google Scholarで調べてみたら,こんな論文を見つけました。

Bart de Boer (2000) Self-organization in vowel systems. Journal of Phonetics 28, 441-465.

はやりの「自己組織化」ですね。

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