マルソリ・ラボ
言語学、音声学、日本語、韓国語など。
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BeckmanによるGussenhoven(2004)の書評
BeckmanによるGussenhoven(2004)の書評が,Languageの最新号(Vol. 84, No. 3, pp. 641-643, 2008)に出ていました。書評の対象となっている本は以下のもの。

The Phonology of Tone and Intonation (Research Surveys in Linguistics)The Phonology of Tone and Intonation (Research Surveys in Linguistics)
(2004/09/30)
Carlos Gussenhoven

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内容の大まかな紹介と,細かい問題点の指摘などがなされています。Ladd (1996) との比較もなされています。

いちばん示唆に富むと思えたのは,最後の段落。音韻論と音声学との区別,およびそこにおける離散性と連続性の問題がふれられています。Gussenhovenは音韻論―離散的,音声学―連続的だと考えているようだけれど,そんなに単純ではないという話。

正直いって,私にはGussenhovenの立場は理解できるけれど,Beckmanの立場はよくわかりません。まあ,関連する文献を読みながら,じっくり考えてみる必要がありそうです。(なお,この問題,そろそろ出るはずの私の論文とも関係があります。)

書評にも書いてありますが,Gussenhovenの本と引き合いに出されるLaddの本は,もうすぐ改訂版が出ます。今回のBeckmanの書評,Gussenhovenの本の紹介であると同時に,Laddの新しい本の宣伝になっているような気がしてなりません。(ちなみに,Laddの新しい本は,Amazonで注文が出来るようになっていました。)

Intonational Phonology (Cambridge Studies in Linguistics)Intonational Phonology (Cambridge Studies in Linguistics)
(2008/10/31)
D. Robert Ladd

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OCP6
来年はじめに,私のいるエディンバラで音韻論の国際会議が開催されます。

OCP6 (The Sixth Old World Conference in Phonology)
University of Edinburgh, 21/22-24 January 2009
ウェブページ

21日にワークショップがあり,22日からがメインの国際会議です。

ちなみに,OCPという国際会議の名前は,有名な音韻論用語OCP(Obligatory Contour Principle)と かけたものらしいです。

エディンバラはとても素敵な街ですので,皆様ぜひいらしてください。時期的に,天気が悪いかもしれませんが・・・。

私はというと・・・完全帰国の予定日の直後なんですよね・・・。せっかくだから帰国を遅らせようかなとも思いつつ,まだ決めかねているところです。

進行中のmerger
もともと弁別されていた2つの音素が1つの音素になるような通時的変化を,mergerといいます。(日本語でなんて言うのかな・・・?)例えば日本語では,その昔「エ」と「ヱ」が異なる母音だったのが,今では1つになっています。でも,あるとき突然2つが1つになるわけではなくて,1つになりかけている途中の段階というのがあったりします。そして,途中の段階では,奇妙なことが起こったりします。それが私が発表しようとしているトピックでもあります。

私が扱っているのは,厳密に言えば2つの「音素」ではなく,2つの音調の型です。対象としている言語は,韓国語の馬山・昌原方言。(たぶん,同じことが広く慶尚南道東部に言えるのではないかと思いますが。)7月はじめ(来週!),LabPhonという国際会議で発表します。(なお,この発表に関することは,以前の記事でも書きました。)

LabPhon 11
私の発表要旨(PDF)

で,先日,ポスター発表の予行演習をしました。もともとあまり自信が無かったネタなのですが,見に来てくれた先生二人から面白いと言ってもらえて,だいぶ自信が出てきました。

さらに,そのうちの一人の先生から,関連する情報を得ました。なんでも,Paul Warrenが進行中のmergerについての研究をしているとのこと。調べてみて,こんな論文をみつけました。

Jennifer Hay, Paul Warren, and Katie Drager (2006) Factors influencing speech perception in the context of a merger-in-progress. Journal of Phonetics 34.

ニュージーランド英語における2種類の母音のmergerの話です。要旨をざっと読んだだけですが,exemplar-based modelと結びつけて論じているようです。やはりそういう方向に議論が向かうんですね。

面白そうだけど,今はすることがいろいろあって,じっくり論文を読む時間がないです。学会に向かう飛行機の中ででも読もうかなあ・・・。

アクセント句とは何か (2)
2年ほど前に「アクセント句とは何か?」という記事を書きました。簡単に要約すれば,「アクセント句」(accentual phrase)という用語には,Pierrehumbert and Beckman (1988)によるものとHayata (1973)によるものの二通りがあるようだ,というものです。

最近研究室の整理をしていたら以前入手したHayata (1973) が出てきたので(書類の山の中に埋もれていました),該当箇所を読んでみました。
# ちなみにこの論文,いろいろなところでHayata (1971) として引かれているのですが,1973年が正しいようです。

要するにこういうことのようです。


アクセント句:##__##に囲まれ,その内部に##を含まない単位。


#の分布は統語構造の中で決まります。名詞+助詞の場合,両者の間には#が一つしかないので,アクセント句一つになります。伝統的な用語でいうところの文節とほぼ一致すると思います。

これ,Pierrehumbert and Beckman (1988) のアクセント句とはかなり違いますね。彼らは実際の音調の現れ方から定義するわけですので。例えば,「アマイ マメ」(甘い豆)は,Pierrehumbert and Beckmanの定義にしたがえば,「アマイ」と「マメ」の間にピッチの谷(L%)があればアクセント句2つで,なければアクセント句一つとなります。一方,早田先生の定義では,どう発音されるかに関わらず,常にアクセント句2つとなるんだろうと思います。

というわけなので,論文中に「アクセント句」という用語が出てきた場合,どちらの意味で使っているのか注意する必要がありそうです。私がソウル方言に関して言う場合には,以前の記事にも書きましたが,Jun (1993) と同じです。Junのアクセント句は,Pierrehumbert and Beckman (1988) と同じように,実際の音調から判断します。したがって,同じ文でも発音によってアクセント句形成のパターンはいろいろありえます。一方,日本で発表された慶尚道アクセントの論文の中で「アクセント句」という用語が出てきたら,たいていの場合,早田先生の定義のほうじゃないかと思います。

参照文献

Hayata, T. (1973) Accent in Old Kyoto and some modern Japanese dialects. 『言語の科学』第4号.

Jun, S.-A. (1993) The phonetics and phonology of Korean prosody. PhD dissertation, Ohio State University.

Pierrehumbert, J. and M.E. Beckman (1988) Japanese tone structure. Cambridge, MA: MIT Press.


金次均氏の「韻律句」と複合用言
最近,以下の本を読んでいます。

김차균 (2002) 영호남 방언 운율 비교. 역락.

韓国語の慶尚南道昌原方言と全羅南道潭陽方言の韻律を扱った本。とても分厚い本でまだ前半しか目を通せていませんが,その中で1つ気になった箇所が。


この本において韻律句は,許雄(1965,1972)の語節を含むのみならず,文法的な複雑性や大きさに関わらず,1つの韻律形で発音されさえすれば,形態素,語,またはそれより大きな単位である句や文,ときには2つ以上の文を指すこともあり,ときには語の一部分(例:/이・일#나・다/ <일어나다>,/개・앤#・찮・다/ <괜찮다>はそれぞれ1語が2つの韻律句から成っている)を指すこともある。この本において用いる韻律句は,現代の音声学や音韻論における音韻論的な語,韻律的な語,韻律語よりその含む範囲が多様で広い。(p.39 注16,拙訳)


# 本文で/이・일#나・다/の다の左脇に点があるかどうかは,見にくくてよくわかりません。私の慶尚道方言に関する知識から判断するに,たぶんあるはず。

似たような概念はいろいろあると思います。アクセント素,アクセント単位,アクセント句・・・。それぞれ少しずつ定義が違ったり,あるいは定義がよくわからなかったり。「1つの韻律形で発音」というのも,なんとなくわかるのですが,実際には判断の難しいケースがいろいろあると思います。

それはともかく,気になったのは1語が2つの韻律句で発音されるケース。ハングルの脇の点がトーンを表しているわけですが,著者独特の表記なので,以下にわかりやすく書き改めてみます。

(昌原方言の場合)
/iil+nata/ (起きる) [HL][HL]
/keen+chantha/ (大丈夫だ) [HL][HH]

# ハングルは音素表記に(hは正確には上付きにすべき。あと,nataのnは流音化するので l にしたほうがいいのかも。)Hは高音調,Lは低音調(著者の表記ではLではなくM)。[ ] は韻律句。

日本語の感覚からすると不思議な現象です。でも,方言ネイティブの著者がそう言っているのだから,きっと本当にそう発音するのでしょう。こういう例,もっと知りたいです。

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